口が堅いと自負している人の中には、驚くほど口の軽い人がいる。信頼して相談したら、多くの人にバラされて困った経験が私にはある。まず「口が堅いと言いながら実は軽い人」の例を挙げてみたい。
その1、相談者の名前だけは伏せて、あとはしゃべる人。こういう人は、相談者の迷惑や不利益になりさえしなければ、しゃべっても悪くないと考えている。実例。「誰にも言わない」と確約するAさんに、私は個人的な事を相談した。するとしばらくして別の人から「大丈夫?」と心配された。Aさんから聞いたとのこと。さすがに私の名前は出さなかったそうだが、話の内容から私の事だとわかってしまったという。私はがっかりしたが、その後、いいことを思いついた。人々にそれとなく知らせたいことを、Aさんに口止めして伝えるのだ。結果は見事に知れ渡った。これは今でも利用している。
その2、相談者と接点の無い人には、しゃべる人。相談者のイメージダウンにならなければいいのだからと、全然関係ない人にはしゃべってしまう。実例。口が堅いと公言するBさんが「実はこんな人がいて・・・」と話してくれたのは、私のよく知っているCさんのことだった。しかも私は直接Cさんから相談を受けていたのだ。思わぬ所に接点はあるものだ。これほど直接ではなくても、何人かに伝わっていくうちに、接点のある人に知られることは良くある。
その3、同じ相談を受けた者同士で、しゃべる人。どうせどちらも知っている事だから、話題にしても構わないと思ってしまう。実例。Dさんは、仲の良いグループの数人に、個別に相談をした。相談をされた同士はすぐにそれを話題にし、Dさんのいない所であれこれ話を始めた。別にDさんはそれを知っても傷つくことは無かったが、私はそのような人たちに相談する気にはならない。
その4、口の堅い人には、しゃべる人。口の堅い人は他言しないだろうから、しゃべっても構わないと思うらしい。実例。私は口が堅いように見えたらしく「誰にも言わないでね」と前置きされて、Eさんの秘密を打ち明けられたことがあった。確かに私は誰にも言わなかった。けれどそんな事を聞かされて、私のEさんへの見方が少し変わってしまった。それは良くない事だと思う。
その5、相談者本人には、しゃべる人。これは別に悪くないようにも思われるだろうが、私は避けたいと思う。映画『トータル・フィアーズ』の1シーンで、部下に機密をうち明けた上司が「この話は聞かなかったことにしてくれ」と言うと、部下は「何の話です?」と返していた。打ち明けあった当人同士でも、以後、基本的に話題にはしないという姿勢は大切だと思う。実例。私がFさんに相談したら、その後、顔を合わせるたびにFさんは無言ながらも「私には判っていますよ」という視線を送ってくるようになった。何だか居心地が悪かった。
以上のような人々は、自分のことを口が堅いと思っているだけに危険だ。そんな中で、わずかではあるが本当に信頼できる口の堅い人にも出会った。Gさんは親身に相談にのってくれ、的確なアドバイスをしてくれたが、その後、こちらから再び話を持ちかけるまでは、私自身に対しても決してその事に触れなかった。顔を合わせても全く以前と変わらないふるまいで、まるで相談したのが夢だったような気にすらなった。けれど不思議とそうされる事が、何よりの励ましになったのだ。相談前後でまったく態度を変えず、なにごとも無かったかのように接してもらえることが、実は何よりの支えになるのだと、私は思った。
最後に、私の理想が小説に描かれているので紹介しよう。ジェフリー・アーチャー作『ケインとアベル』という本に、とてつもなく口の堅い人が出てくる。あまりの堅さに、賛否両論が起こりそうなほどだ。どうせならそれくらいの極端な口の堅さを目指したい。(ストーリーの面白い所に関わるので、具体的には書かないでおく)。私は「誰にも言わない」と言ったら、本当に文字通り絶対誰にもまったく少しも何も言わない人でありたいと思う。
|